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冥界に使者を出した男

    Mei


 会津百二十万石、上杉景勝の家老、直江山城守兼続は関ヶ原の合戦で西軍の石田三成と呼応し、徳川家康に敵対したものの、戦い利なく西軍はもろくも敗れ、上杉家は米沢三十万石に減封されたが豊臣家滅亡後も上杉家を存続させた。

 文武両道に秀でた名君であった。主君の景勝が、ある時、些細なことで三宝寺庄蔵という身分の軽い家来を手討にしたことがあった。庄蔵の罪は斬るほどの重い罪ではなかったが、よほど景勝の虫の居所が悪かったのだろう。これに納得しない庄蔵の親戚の者達が兼続に訴えでた。

「御家老様、どうか庄蔵をお返し下さい」
「死んだ者を返せなどと無理を申すでない、庄蔵は殿のお怒りをかって罪を豪った者ゆえ、いかんともし難いのじゃ」兼続は噛んで含めるように色々と言い聞かすが、庄蔵の親戚達は頑として聞き入れない。さすがの兼続も弱りきった。

 「これまで申し聞かせたように、すでに庄蔵は亡き者、その方どもがいくら返せと申しても、この山城とて冥府から庄蔵を呼び戻すわけには参らぬ。ではこう致せ、その方どもに銀二十枚を遣わすゆえ、ここはそれにて聞き分けて庄蔵をねんごろに弔ってやってはいかがなものじゃ」家老職にありながら、兼続は辞を低くして言った。

 「いえ、わたくしどもは金子が欲しくて申しているのではございません。ただただ庄蔵をお返しして欲しいばかりなのでございます」戦国の気風が充分に残っている当時のこと、相手が家老であってもおいそれとは引き下がらない。

「さようか。わしがこれほどまでに申しても聞分けがなく、どうあっても庄蔵を返せと申すのじゃな。わかった。いかにも返して遣わそう。暫くそこにて待て」奥へ入った兼続は、家来に命じて一枚の高札を持ってこさせると、筆をとってサラサラと書き付けた。

 「一同の者、待たせたの、では庄蔵を返して遣わすゆえ、わしの後について参れ」兼続は家来数人と共に庄蔵の親類を連れて外に出た。やがて、橋の袂まで来ると家来に命じて庄蔵の親類達を縛りあげた。

 「そのほうども、よぅく聞け。ただ今から庄蔵を呼び戻そうと存ずるが、冥府に使いする者が無い。そこで、庄蔵の兄と伯父、それに甥の三名は誠に大義であるが閻魔大王にあい、庄蔵を連れ戻して参れ」と言うやいなや、有無を言わせず三人を斬ってしまつた。

 『未得貴意候へども一筆令啓上候、彼三宝寺家来何某不慮の仕合にて相果候、親類歎候亦呼返し呉候へと様々申候に付、即三人迎向かいに遣わし候、彼死人お返し可彼下候(未だ、貴方のご意向を伺ってはおりませんが、一筆差し上げます。ぜひとも死んだ者をお返し下さるよう、お願い申し上げます)

 慶長二年二月七日 直江山城守兼続判  閻魔大王 冥官獄卒御披露』

 こう書かれた高札を三人の死骸の側に立てた。このことを知った領民は憮然として、一言も批判めいたことを言う者はなかった。【大江戸かくれ話事典】

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           直江山城守兼続は、知勇兼備を備えた武士
           珍念のコメントは  『恐れ入谷の鬼子母神』


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