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『月の満ち欠け』

Tuki


                先日小欄で紹介した佐藤正午さんの『月の満ち欠け』
               (岩波書店)が、直木賞を受賞した。作品には同社の編
                集者で八戸市出身の坂本政(まさ)謙(のり)さんが深く
                関わっている。今回は前に書き切れなかったこぼれ話
                である







▼一つ。作中、何度か登場する八戸だが、地域名まで記述するか検討したという。ただ、例えば「長者(ちょうじゃ)」「吹上(ふきあげ)」とルビを振っても、細かくなりすぎるだろうという判断で、残念ながら見送りになった経緯がある

▼二つ。とても長い時間軸が背景に流れる物語だけに、一つ一つのエピソードが時代設定とずれることのないよう細心の注意を払った。年表を作ればちゃんとはまるという

▼三つ。打ち合わせで、編集者は作家に「私を泣かせる作品にしてください」と依頼したそうだ。原稿の冒頭部分を読んだ編集者は「いける」と手応えを感じた。最終場面が届いたときは本当に涙が出たという

▼最後に、八戸出身者が何人も登場するのだが、実は主要登場人物のうち一人は津軽地方の出身。つまり、この作品は青森県人の物語でもあるという点は触れておきたい

▼さて、やぼな解説はここまでにしておこう。ただ、一つだけ。直木賞はあくまで作家の栄誉である。でも、八戸で暮らす本好きとしては、ふるさとの地名を傑作にちりばめてくれたベテラン作家の腕前に加えて、優秀な同郷の編集者にも、一言「おめでとう」と伝えたいのである。【天鐘】


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Syou

 

   珍念のコメントは『蛇足』





『月の満ち欠け』 商品の説明  メディア掲載レビューほか

  東京駅のカフェで初老の男が店員に注文を伝えると、先に着席していた小学生の女の子が「どら焼きのセットにすればいいのに」と言い、かつて3人で食べたよねと畳みかける。

 再読すると、少女が初対面の男を知悉していることを強調する冒頭シーンの繊細さに驚かされる。その後の約300頁は、男と読者が抱く「違和感」を解きほぐすことにあてられる。手塚治虫『火の鳥』や折口信夫『死者の書』を思い起こさせる展開だ。

 著者は人生の岐路を主題としてきた作家だ。「記憶」をカギとする本作もその系譜にある。「まさか」と思える出来事に現実味を与えるのは、細やかな生活描写だ。感動の場面は無数にあるが、満月の夜に一人でどら焼きを食べたくなる「究極の愛」の物語だと評するにとどめたい。とにかくラストがすごい。評者:朝山実


トップカスタマーレビュー

瑠璃も玻璃も照らせば光る  投稿者  nikataro

 普通に小説というジャンルでは「現実世界に極めて近いリアリティー」を描くか「まったくの想像の産物」を書くのか、どちらかであろうと思っていたが、本作は「ありそうでない世界ながら、なさそうである既視感」を完全に描ききった傑作。

 野球でいえば「ボールからストライクになる球」と「ストライクからボールになる球」を自在に紙一重でコントロールできる超絶技巧派ピッチャーの安定感といったところ。すべての文章が伏線で、何気ない小道具ですらも後々完全につながる構成、さらにテーマは実は完全な剛速球であり、あっという間に完全試合を達成されたのに悔しさではなく、清々しさをじっくりと味わうことができる。今年の、というよりは近年の小説のなかで「ベスト第一位」にぜひ推薦したい。

究極の愛の形をミステリアスに描く  投稿者  hiroshi 

 「運命の人」は、出会った時に一目で「この人だ」とわかるという。そして、その人と「添い遂げたい」と強く願うのである。もし自分が先に死ぬならば「生れ変わって、ふたたび愛する人の前に現われたい」とも望むかもしれない。何度でも生れ変って愛する人の前に現われる。この輪廻回生こそ究極の愛のかたちではないか。佐藤正午の20年ぶりの書下ろし小説は、この究極の愛である「生まれ変わり」を主題にしている。

 三人の男と二人の女性の30年に及ぶ物語である。二人の女性と書いたが、生まれ変わった人物を含めるとさらに多くなる。いつもの 作者らしく淡々と物語は進んでいく。感情を煽るでもなく、深刻ぶるでもなく、簡潔な事実の記述が却って読者を不安に誘う。意外な展開が続き、どこに連れていかれるのかと、思わず身構える。冷静で巧みな文章が「生れ変り」というスピリチュアルなテーマにリアリティを与えている。幾重にも張られた伏線と予想もできない展開に、私は翻弄されるままであった。そして、ラストの一行の見事さに胸が震えた。

 振り返れば、佐藤正午はデビュー作の「永遠の1/2」以来、ありえないことをあたかも現実のごとく書くことで読者の心を掴んできた作家である。緻密な構成と鮮やかな人物描写、巧妙に仕掛けられた伏線、そして研ぎ澄まされた文章で、さりげない日常に潜む異常を読者の前に突きつけたのである。この作品は、「小説とは何か」を追求し続ける作者の発想と試みが結実した、ミステリーの形をとった、心揺さぶる恋愛小説である。

 追記: 岩波、みすず、白水社など、硬派の出版社が出す小説はどれも面白くて質が高い。本書も例外ではなかった。 ( ^ω^)おっおっおっ

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