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ラブドールの世界

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 先日『今と昔の愛人形』オリエント工業40周年記念展(アツコバルー・東京渋谷にて6月11日まで)をのぞいてみた。
 いわゆるダッチワイフと呼ばれた愛玩具など「人と相対し関わりを持つことのできる人形」をモットーに創られた「愛人形・ラブドール」の展覧会だ。

 最初に、巨匠・篠山紀信先生が「LOVEDOLL」を撮ったと聞き、渋谷のサラヴァ東京で写真展とトークショーをのぞいたのがきっかけだった。

 女性の裸を撮り続けてきた巨匠・篠山がラブドールを撮るという流れは、人形師・四谷シモンの球体関節人形を撮ってきた過去を思えば、当然の流れだろう。
 しかし今回、巨匠の写真を見て驚いたのは、ラブドールという被写体の中に、実は本物の人間が紛れていたということだった。






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 これには私の目も完璧にだまされてしまった。
 そのことを話すと巨匠は「でしょう、面白いでしょう?」としたり顔で返してきた。

 写真展終了後に、オリエント工業40周年記念のラブドール展示イベントがあると知ったので、都築響一×みうらじゅん×オリエント工業・土屋日出夫社長とのトークショーイベントに行ってみた。

 大勢の客で賑わう展示会場。
 ちょっと気恥ずかしさがあったものの、中に入ると客の半数は若い女性が占めているではないか。
 しかも、リアルなラブドールが何体も展示されているのにも驚いた。
 オリエント工業が手掛けてきた人形の歴史の解説とともに、あちこちにラブドールの面白い展示があった。

 一番興味をそそられたのは、ラブドールたちを食い入るように眺め触りまくる女性に混じって、「僕は実際にマジに見たくてきているんだけど…」という切実な心の声が聞こえてきそうな男性客の視線だった。

 私も一応女なので、女性たちの興味はなんとなくわかる。
 人形と本物の違いを探ったり、あるいは完璧に施されたメイクや妖艶な表情を観察するのは学びも多いだろう。
 しかし、男性客の中には本当に欲しい人だっているはずだ。

 そして、ラブドールが家具となった「愛玩人形家具」。
 カウンターテーブルと一体化した乳房むき出しのバニー姿のラブドール。
 右の乳房を揉むと、左の乳房から、ラブジュース(白ワイン)がピューっと出てくる仕組みになっていた(有料300円)。

 今回の展示は、それを実際に手で触れて体感できるのだ。
 しかも、人形が何か喋っていて、カウンター越しでそれに答えている男性客とのやりとりがいちいちおかしかったり。

 しばし、この不思議な〝家具〟に見惚れていると、乱歩の人間椅子やキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』のミルクバーの場面を想起させられたほど。
 「人形・ひとがた」というものに対しての、果てしなき妄想とタブーとされている世界への憧れ。

 そもそも、「人形・ひとがた」というものは偶像崇拝なわけだから、ヨーロッパなどではタブーとされていたものだったりするわけで。
 しかし、日本では古くから、人形文化というものがあった。
 このあたりからも、日本人と人形愛とのつながりの深さの示唆を読み取ることができるのではないだろうか。

 会場内の展示物には、堂々と裸の女の人形が置いてあるのだが、どこかポップアート感覚もあり、あまり抵抗感を感じさせない。そこが女性客に人気なのだろうか。

 女性客に混じって冷静にラブドールたちを見つめる男性客の背後で、私は観察眼を光らせてみた。
 人形は綺麗な体を持っている以上に、ポージングのエロさや表情、愛人形として創られたそれぞれの慈悲深さ、母性すら感じられるではないか。
 文句を言わない。理想を求めない。
 彼女たちは全てを受け入れる稀有な存在だ。

 ラブドールを扱った映画もある。
 『空気人形』(2009年是枝裕和監督)や『ラースと、その彼女』(2007年ライアン・ゴズリング主演)など。
 ラブドールが孤独な人間を救う存在として描かれている。
 さらに、ラブドールの進化系として、人造人間(レプリカント)や人工知能(AI)という未来もある。

 『エクスマキナ』(2015年)の美しすぎるAIや新作が待ち遠しい『ブレードランナー』のレプリカント。それらに共通するのは人類との関わりによって起こる悲哀を描いていることだろう。

 それにしてもこのラブドール、過去の人形から改良を重ね、実に精密に丁寧に創られている。
 それを実際に手で触れて体感できるのが貴重だ。

 過去の人形といえば、いわゆるダッチワイフ、南極何号とかと呼ばれたビニール製の空気人形だ。あれはあれで、性処理だけを目的とした不思議な愛玩具だなと思っていた。膨らまして潰れたらさぞ哀しいだろうに。

 都築響一氏とみうらじゅん氏とオリエント工業社長・土屋日出夫氏によるトークショーでは、みうらじゅん事務所所属のラブドールについて、オリエント工業社長・土屋氏によるラブドール誕生秘話などをそれぞれが語っていた。
 途中、ポージング講座なるものもあって、整体師のようにドールを自在に動かす専門家がポージングをいろいろ披露してくださった。

 年を取って何か高級なモノを所有するにあたり、高級車を買うには免許がないし「何か他に高級なモノは?」と思ったときに、高級ラブドールを買おうと思ったそうだ。値段は1体70万円ほどするらしい。
 確かに、その発想は実にみうらさんらしくて面白かった。

 オリエント工業は1977年創業。
 社長の土屋日出夫氏が、大人のおもちゃ屋を手伝ったのがきっかけだった。 
 その当時、こけし、肥後ずいきなどの民芸品的な女性モノしかなく、男性用は浮き袋みたいな人形しかなかった。
 その浮き袋みたいなものでも、身体の不自由な方などの顧客がいたそうだ。
 理由は「風俗に行きたくないから」だったそうだ。
 のちに77年独立、ラブドール創りを自社で始めることになる。

 試行錯誤を重ね開発された人形のそれぞれ。
 「微笑み」「面影」
 初期型につけられた名前もなにか日本情緒というか、悲哀が感じられる。

 肉体的障害、精神的障害、女性不信、伴侶を亡くしたなど、さまざまな事情を抱えたユーザーからの声が寄せられた。
 オリエント工業ではシュールームに商品解説だけではなく、相談室まで設けたそうだ。
 これを聞いて、ふとあることを思い出した。 
 

 以前、前立腺がんの手術を受けた方と性について話したことがあった。
 フランスの場合、奥様のために手術する前に自分の性器の型をとっておく旦那もいるそうだ。それを聞いて、実にフランス人らしい感覚だなあとも思った。

 オリエント工業製では、さらに二次元アニメキャラのラブドールまで創られていたのには驚いた。
 しかし、熟女バージョンはないらしい。ユーザーの需要が少ないからだそうだが、一つの型を作るのが大変だという理由からだろう。
 そのほか、チャイルドロス、老人介護用などさまざまなニーズに多様化した人形もある。今後、独居老人増加に伴い、ユーザーも増えていくかもしれない。

 ラブドールは、ユーザーと呼ばれる客の元へ配送される際には、「お嫁入り」と呼ばれ、やむない理由で返却されたときは「お里帰り」という。そして年に一度、人形供養もするそうだ。

 オリエント工業の土屋社長の夢は、東京に「ラブドール秘宝館」をつくることだという。
 秘宝館とは面白そうだ。
 海外からの観光客からも人気を集めそうな、東京の新名所になることだろう。
 

 一言でラブドールといっても、オリエント工業が創る愛人形との40年は、ものすごく深い世界なのである。


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     東京に「ラブドール秘宝館」が出来たら是非見たい!
     珍念。お金と美人、大好きです・・これ以上、吠えたら
     変人と思われる・・口を閉じます 

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