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「〆切哀歓」

Photo      黒澤明が鋭く解剖する、時代名作〝勧進帳

      新聞記者の世界に「勧進帳」という隠語がある。
      弁慶が安宅の関で、白紙の勧進帳を朗々と読
      み上げ、義経の危機を救った話から「たとえ原稿
      は白紙でも、締め切りに間に合うように送れ。50
      行分を勧進帳で送れたら一人前」と言われた。




 ▼そんな締め切り命の業界で半世紀を過ごす僕にとって、とてつもなく面白い本が出版された。その名も『〆切本』(左右社)。有名作家と担当編集者との原稿の〆切を巡る「泣けて笑える」エピソード集である。

 ▼例えば、随筆家としても知られる科学者、寺田寅彦は胃が痛いと〆切の延期を要請したハガキの末尾に「病気は大したことはなく、遊んでいればいいという我儘病で…」と書いた。『宮本武蔵』や『新・平家物語』で知られる吉川英治は「どうしても書けない…内容の燃焼が欠けている」と編集者に許しを乞う手紙を書いて奥さんに持参させた。

 ▼「私の頭脳は完全にカラッポになってしまったのです」と泣き言をいい、〆切までに原稿が書けない言い訳をしながら、その文章を連載の1回分としてしまった猛者もいる。柴田錬三郎である。

 ▼感動したのは週刊朝日の元編集長、扇谷正造が坂口安吾に宛てた手紙。原稿の出来栄えが不満で掲載を断るが、そのせりふがかっこいい。「署名入りの原稿だから、責任は筆者にあるという考え方もありますが、掲載した以上は責任は編集者が負うべきです」。いつかは使ってみたい言葉である。【水鉄砲】

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             『〆切本』
商品の説明 内容紹介

            「かんにんしてくれ給へ どうしても書けないんだ……」
            「鉛筆を何本も削ってばかりいる」追いつめられて苦し
            んだはずなのに、いつのまにか叱咤激励して引っ張って
             くれる……
      〆切とは、じつにあまのじゃくで不思議な存在である。
             夏目漱石から松本清張、村上春樹、そして西加奈子まで
             90人の書き手による悶絶と歓喜の〆切話94篇を収録。
             泣けて笑えて役立つ、人生の〆切エンターテイメント!




出版社からのコメント

しめきり。そのことばを人が最初に意識するのは、おそらく小学生の夏休みです――。本書は、明治から現在にいたる書き手たちの〆切にまつわるエッセイ・手紙・日記・対談などをよりぬき集めた“しめきり症例集"とでも呼べる本です。

いま何かに追われている人もそうでない人も、読んでいくうちにきっと「〆切、背中を押してくれてありがとう! 」と感じるはずです。だから、本書は仕事や人生で〆切とこれから上手に付き合っていくための“しめきり参考書"でもあります。

トップカスタマーレビュー

無類の面白さ。    投稿者  ラムキンパパ 

これは書き手(描き手)必読の書。本好きを自任する人なら読まないという手はない。なんといっても装幀が素晴らしい。文字だけでデザインされたシンプルなものだが、表紙の美しい活字に見惚れ、置かれた言葉に思わず笑みがでる。この本を手に取り表紙を捲ってみて、ニヤけなかった人は、しょせん本や読書に縁のない人かも。

本来、地味なテーマのはずなのに、編集者のこれ以外ないと思わせられる章立てに絶妙な選択によって構成されると、言い訳や愚痴といったレベルとは違ったものになってくるのが凄い。最初から順に読み進めると、笑わせられ、考えさせられ、身につまされるという次第で、読むことの楽しさを久々に味わうこととなる。「はがき」ですら面白い。これはアンソロジーとして出色の出来である。

田山の狼狽、谷崎の居直り、横光の屁理屈、梶山の憂鬱等々挙げていけばきりがないが、〆切本の底に流れるものは、遅れる作家、間に合う作家色々あれど、どんな状況にあっても最後には傑作、佳作をものせずにはおかない作家(と編集者)の矜持であると感得するならば、あら不思議や、やっぱりなぜか勇気がわいてくる、ということで書き手にお勧めする所以。

付記。読み終えて気付いたが、90人の書き手による94篇とあるが、まさか90は「苦渋、苦闘、苦悶」の、94は「苦しむ」の語呂合わせではあるまいな。単なる偶然か、この用意周到な本作りからすると、う~む…。

  言い訳文学   投稿者  この手   

昔の人はなにごとも真剣だった。なにもそこまでというくらいに、締め切りを守れない言い訳を繰り出す谷崎潤一郎。その姿が無性にいとおしく、文豪には失礼ながら、きんじょのおじさん的な親近感すらもってしまう。ここに言い訳文学というジャンルが誕生したかも。編集者・埴谷雄高の、原稿をもらえない末の「人間不信」エッセイもいい。

人生の〆切が、刻々と迫る【珍念】二十日鼠のように、ちよこまか しています。 (o^-^o)

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