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無垢(むく)の心

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 子どもの頃、胸打たれた短編がある。題も筆者も覚えていないがさし絵には袴(はかま)姿の男性と貧しい身なりの女性が描かれていた。たぶん、昭和初めか大正期に書かれた小説だ。

 ▼こんなストーリーだった。げたの鼻緒が切れて女性が道端で困っている。男性は見るに見かねて手ぬぐいを裂き腰をかがめて直してやる。しかし女性は満足にお礼の言葉も言えずにいる。おやっ、と思うが男性はすぐに女性に知的障害があるらしいことに気づく。

 ▼相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々と刃物で襲われ19人が亡くなり26人が重軽傷を負った事件の報から2日が経(た)った昨日、昔読んだ短編が脳裏に甦(よみがえ)ったのは無名だが結末が印象に残る作品だったからだ。

 ▼逮捕された26歳の男は施設の元職員で「障害者なんていなくなってしまえばいい」と供述しているという。抵抗の術(すべ)を知らない障害者たちを襲った事件の衝撃は大きい。あまりにも大きすぎて当日も翌日も原稿のます目と向かい合っても言葉を絞り出せなかった。

 ▼小説では後日、男性の自宅が火事になる。礼は言えなくても恩を忘れてはいなかった女性は、男性が不在とは知らず燃える家に飛び込んで犠牲になる。それを知り男性は泣く。わが身を振り返らず恩に報いようとした無垢(むく)の心を思って。

 ▼障害者に対する見えない差別、偏見の壁を突き崩すために書かれた小説だったはずだ。やっと壁の向こう側が見えてきた平成の日本で起きた信じがたい事件。薄ら笑いを浮かべた男に言いたい。お前こそ「いなくなってしまえばいい」と。【くろしお】

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       (珍念)感動しました!

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